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I- #06「即興演奏について」
I -ライナーノーツ Liner notes
〜JUN FUKAMACHI age58
2004 アルバム「IMPROVISATION LIVE!より)

非常に簡便な、僕のコンピュータに入っている日本語辞書によれば、即興演奏とは『あらかじめ決められた譜面に頼ることなしに、即座に創作しながら演奏すること。インプロビゼーション』とある。この文章がどれほどのことを意味しているのか、僕にはよくわからないが、これも即興演奏の説明のひとつだろう。『譜面に頼る』という表現はよくないなあ。

即興演奏をしているとは、いったい何をしているということだろうか。はたして、それは説明可能だろうか。つまり機械論的な意味で、僕の体のどの機能が、どのように働くことを解明することだけでは、即興演奏という行為の持つ、もっと深い意味を理解できるとは思えない。

「即興演奏で演奏される音楽と、書かれた曲を演奏する音楽と、いったい何が違うのですか?」と、ある人から聞かれた。これは素晴らしい質問だ(特に曲が演奏家によって書かれた場合)。ある意味では同じだと言えるがある意味では違うと言える。

即興演奏をするために、僕が大切だと思っていること。それは「勇気」。冒険という言葉にもひどく似ている。

「音楽とは何か」を問うことと、「即興演奏とは何か」を問うことには、何か共通点を感じる。

人間にとって「文字」とは驚異的な発明だった。それは書かれた言葉だ。語られる言葉とは違う機能を持っていた。では楽譜は文字ほどに偉大な発見だったろうか。いったい楽譜とは、音楽の何を記したものなのだろうか。

即興演奏に関して多くの人が尋ねる。「何故メロディを考えながら伴奏も考えて、そのうえ弾くこともできるのですか?」と。そして僕はいつもこう答える。「おしゃべりと同じなのです」と。ふつう、人はおしゃべりをしているとき、次に何を言おうかなどと考えないものだ。そして言い間違うこともなく、テーマは次から次へと展開していく。ある時間を即興演奏で埋めるということは、このおしゃべりをしていることに、とても似ていると思う。

子供の頃、母は毎晩枕元で「お話し」をしてくれ、僕はそれを聴きながら眠ったものだった。その「お話し」は既成の「お話し」ではなく、即興的に作られるオリジナルなものだった。その証拠に彼女は時に僕のリクエストに応えて、ストーリーを変更したり、やり直したり(元に戻る)してくれたからだ。

かつてヨーロッパには吟遊詩人がいたと言われる。彼は様々な場所、儀礼の場であったり祝祭の場であったり、そこで即興的な詩を詠ったのだろう。その基本的なストーリーや登場人物は伝統的なものであっても、即興の詩を詠ったといわれる。

この「物語る」ということも、即興演奏に似ている。たぶん平家物語などは、こうしたスタイルで受け継がれてきたのではないだろうか。では、これを「音語る」としてみよう。即興演奏とはこういうことをしているのだ、と言えるかもしれない。

作曲家が演奏しなくなり、演奏家が作曲をしなくなったのは最近のこと。音楽が商品となることによって、より専門的に高度に職業化した結果だろう。そのことが、その分化が悪いものをもたらさなかっただろうかという僕の危惧は、決して消え去らない。その意味では即興演奏は既存の音楽形態(作曲と演奏)へのアンチテーゼでもあるかもしれない。

歌曲に比べ器楽曲は、その抽象度においてより洗練されている。そこにもはや(言語的な意味での)物語は存在しない。それはむしろ聴く者に委ねられているのだ。聴く者が自ら創造の努力をすることを必要としている。

僕にとって、その物語(ストーリー)に象徴されるものがメロディーだ。ちょうど多くの作家が、その主人公の行動や性格について、自分で意図したものではないというように、即興でのメロディーは、作家自身の計画や目的にない、失敗や偶然から、あるいは歌い続けたいという願望、熱意が存在し、最も素晴らしければ遊ぶことさえ可能である。

音楽の練習をしたことのある人なら誰でもが一度は先生から言われた言葉がある。「もっと歌って、歌って」。この「歌え」と言われていることを、持続すること。聴衆の目の前で今生まれ、直ちに消えていく。これほど純粋なものがあるだろうか。残っている痕跡は精神的な刺激だけである。そういうものが即興演奏ではないだろうか。
 

JUN FUKAMACHI age58
(20O4年アルバム「IMPROVISATION LIVE!」ライナーノーツより)
 
Gate(2011)
 

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